いろいろな国の古くから伝わる習わし・言い伝えは、その土地の文化が大きく関係しているため、違いがあって面白いですね。
モンゴルには独自の遊牧文化が存在しており、守られてきた言い伝えもユニークです。
今回は現代にも受け継がれている、モンゴルのちょっと変わった風習をいくつかご紹介します。
遊牧文化が生んだ「予定は立てない」習慣
遊牧民は時間に対して大ざっぱであり、彼らの中には「午前」か「午後」かのふたつの時間があるだけです。当然ながら細かいスケジュールは立てません。
時間に厳しい日本人からすれば、少しいい加減な印象を受けますが、決してルーズという意味ではなく、そこには独自の考え方が存在しています。
まず、大自然の中では何が起こるか予測不可能であり、人間の計画通りにはいきません。
そのため予定は立てることは無意味であり、逆に「思い通りにいかない」というネガティブな状況を作り出してしまうと考えています。
モンゴルにはこの考えから生まれた独自の習慣が存在し、それは私たちの常識とは違う、面白い性質を持っています。以下にその具体例をあげてみます。
1.到着時間を決めると不吉なことが起こる
たとえば遠くへ出かけるときは、到着時間を決めるのが普通だと思います。それが誰かの家を訪問するとなれば、相手の都合もあるのでなおさら重要になってくるでしょう。
ですがモンゴルでは遠出をするとき、あらかじめ到着時間を決めません。これは時間なんてどうでもいいと考えているのではなく、決めると不吉なことが起こるとされているからです。
そのため人々は大まかな感覚で行動し、迎える側も「明日行く」「日が暮れるまでには着く」と、この程度にしか告げられません。
草原に住む遊牧民であれば、ゲルの鍵をかけずに出かけてしまうため、来客の到着を待って身動き取れなくなることはないようです。
街に住む人は鍵を開けっぱなしで外出はできませんが、現代では携帯電話でやりとりができるので特に困ることはないようです。
2.出産前に服や玩具を用意してはいけない
次は新生児のお話です。出産を控えたお母さんは、予定日が近くなると生まれてくる子どものために、服や哺乳瓶などを準備するのが普通でしょう。
ですがモンゴルでは出産を終えるまでは、子供の物を一切用意してはいけないそうです。
もしも準備すれば何かしらのトラブルが起こると信じられており、友人からの贈り物も生まれる前に渡されることはありません。
これはお下がりの物をゆずる場合でも同様であり、いずれも渡すのは出産後であることがマナーです。
そのためモンゴルの友人に贈り物をする機会があれば、外国人の私たちは気を付けなければいけませんね。
こちらは祝福したつもりでも相手にとって不吉になってしまうので、たとえ出産前しか会う時間がないといっても、贈り物は控えた方が良さそうです。
3.目標達成の決意は発表しない
「思い通りにいかないから予定を立てない」といっても、世の中そうもいっていられないことがたくさんあります。
例えば留学をしたいと思った場合は、試験など期日の決まった目標を達成しなければならず、それには予定を立てて努力することも必要です。
そんなときはどうするかというと、「必ず達成する!」といった強い意志は、人に言わずに密かに決めるそうです。
常に人前では「いけたらいいね」「できるかなぁ」といった曖昧な態度を示しますが、実はしっかりと決意を固めて陰で努力を続けるスタイルです。
この「陰ながら努力する」姿勢は日本にもありますが、モンゴルの場合は私たちとは理由が違い、「決めれば思い通りにいかなくなる」という考えのもとに行われています。
モンゴルの子供を守るための言い伝え
話は少し変わって、次はモンゴルの子供を守るための魔除けの習慣です。
これらは昔話が関係していて、鬼はかわいい子供をいつも狙っていると考えられています。そのためかわいく見せない工夫がこちらの習慣になっています。
1.子供には汚い格好をさせておく
まずひとつは「子供に汚い格好をさせておく」というものであり、潔癖症のお母さんにはちょっと受け入れがたいものかもしれません。
近年、都会の子供はきれいな子も多くなってきましたが、基本的に外で遊んだ後の、泥で汚れた状態は「良いこと」とされています。
これは元気な証拠というだけでなく、汚れた子供には鬼も悪魔も寄り付かないといわれているからです。また破けた服もなども良いそうです。
2.昔話に出てくる魔除けの墨
もうひとつ鬼にまつわる話があり、モンゴルではときどき顔にスミをつけている子供を見かけることがあります。
これも魔除けの意味を表していて、古い昔話から伝えられたものだそうです。
ある日、二人の鬼が可愛い子供を誘拐しようと企みました。まずは夫婦をケンカさせ、母が子供を連れて出ていくところを奪い去る計画です。
鬼たちの操りどおり、夫婦はケンカをして母は子供を連れて実家に帰ることになりました。
そこまでは順調でしたが、母は出かける前にストーブのスミを手に取り、お守り代わりに子供の鼻筋に付けたのです。
一人の鬼は家から出て行くところを確認し、もう一人の鬼は少し先で待ち伏せしていましたが、いくら待っても子供を抱いた女は現れません。
一人の鬼が女は来たかとたずねると、黒い鼻のウサギを抱いた女なら通ったけど、かわいい子どもはいなかったと言ったそうです。
どうやら鬼は顔に墨を付けた子供を、黒い鼻のウサギと見間違え、誘拐し損ねてしまったようです。こうして母子は拐われることなく、無事に過ごしたという物語です。
今でも夜に子供を連れて出かけるときは、顔に墨を付けていくのが習慣となっています。鬼たちもやはり計画通りにはいかなかったようですね。